歴史に残らないヒーロー
ヒーローとは、100回戦って100回勝つ人のことではなくて、
そもそも争いが一度も起こらないように、周りに気を配れる人のことだと思う。
大学時代、私は今よりもっと好戦的な性格で、言葉で喧嘩を振りまいていた。
武力ではなくて言葉、特に正論であれば、結果として人を傷つけても仕方ないと思っていた。
「自分の正義」VS「他人の正義」で戦い、お互いがお互いの考えを卑下するものだから、その場の空気はどんどん険悪なものになっていった。
その時、その場にいた友人のTがこう言い放ったのだ。
「落ち着け、俺たちは戦ってるんじゃないだろ?」
その一言で、炎上寸前だったその場の空気がふっと和んだ。
そうだ、私達は戦って勝つ必要性があったわけじゃなく、ただ、相手に「なるほど!」って言って欲しかっただけだった。
今思えば最高にくだらない議論だったと思う。
毎日のように結論のない議論にいそしんでいた大学時代、Tのおかげで喧嘩にならなかったことが、多分何度もあるんだろう。
起こらなかった争いについて、人の記憶に残ることはない。
でも、争いが起こらないように気を配ってくれた人こそ、確かにヒーローなんだと思う。
「百戦百勝は、善の善なるものに非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。上兵は謀を伐つ。」-子ども孫子の兵法より抜粋